「故郷の干潟」

1999 July25

Words By Kenji Kanno!


ハサミを大きく振って

恰も歓迎しているような仕草で

存在を鼓舞している

干潟は蟹の宝庫であった


ゴカイにイソメ

干潟はまた魚の餌場でもあった


我が故郷の幾つもの川の河口には

いたる所に豊かな干潟があった


釣りに出かけては

干潮の干潟を掘って

子蟹やゴカイを得て餌とした


満潮とともに海に同化し

豊かな釣り場となった


釣り竿の変わりに

大きな葦原の

丈夫な葦を折り取り

テグスを結んで

俄か竿の出来上がり

そんな釣り竿を

何本も立てたものである


豊かな干潟の海は

大量のハゼを育て

俄かの釣り竿をしならせる


釣りで得られる魚は

たかが知れているが

それでも100単位の

正月用のハゼが

採れたものである


古き良き時代は戻らない

取り返しのつかない

過ちを犯してはいまいか


いつのまにか

干潟は消滅し

見る影もない


埋めたてられた干潟は

幾つもの建売住宅で埋め尽くされ

ここが豊穣の海であったことなど

夢のまた夢

住み着いた新参者には

知る由もない


渚の波音を聞く

ロマンティックな

新興住宅地に

言い知れぬ憤りを感じているのは

私だけではあるまい


古き良き時代を諦めきれない

未練がましい想いに

胸が熱くなる


SelectMenu TopPage