「稲穂」

1999 Sept.4

Words By Kenji Kanno!


数十年前には

幼子のテリトリーのここそこに

田園が広がっていた


夏から秋にかけて

稲穂が頭(コウベ)を垂れる頃

毎日のように畦道に遊ぶ


両側の稲穂から

ピョンピョンピョンピョン

イナゴが飛び交い

歩調に合わせて波を打つ


10センチ以上の大カマキリが

産卵前の鈍く光る

稲穂色の腹をヒクヒクさせながら

素早い身のこなしで

鋭い対の鎌を構え威嚇する


右手で素早く

青緑の細長い体の

最も細い首を掴む

もがいても

鎌は掴んだ指には届かない

田園に君臨する幼き王者は

不敵な笑みを浮かべた


何匹も何匹も

大カマキリを捕まえては

虫籠に入れる

鎌どうしで喧嘩をさせては楽しみ

イナゴを食らわせては楽しむ

たわい無い幼い狂気があった


時は移ろい

身近な田園が消えて行く

メガロポリスが

田園をビルに変え

ニュータウンを生み出して行く


今の我が家は田園に囲まれている

散歩ができる距離に田園が広がっている

今年は豊作である

たわわに実った稲穂が

重たげにユッサユッサと

風を楽しんでいる


古の幼き王者のように

心躍らせて

畦道に足を踏み入れた


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