「野良の勇者」

1999 July20

Words By Kenji Kanno!


野良の勇者は気高かった

心を通わせようと

手を差し伸べても

優しく言葉を掛けても

毅然と拒否される


何が勇者を

こうのように頑なにさせるのか


彼は野良犬のリーダーだった

10数頭の仲間を束ね

健気に力強く生きていた


彼らが人間に危害を加えたわけでもないのに

お役所仕事の美名のもと

ある日突然

彼らのフィールドに

毒入り竹輪が撒かれた


気高いリーダーは

一口も食べずに威厳を示した

しかし仲間は食欲に負け

次から次へと食していった

バタバタと毒に倒れて行く

生き残ったのは

ついにリーダーただ一頭である


彼は極端な人間不信になった

飼い主に捨てられ

今また仲間を殺された

威厳はさらに厳しく

彼を頑なにする


いつしか彼はお尋ね者となった

その首には懸賞が付くに至った

彼が悪さをしているわけではない

彼のフィールドが観光地で

野良犬が闊歩すのは示しがつかない

ただそれだけの理由である


しかし彼は

捕まるような愚か者ではなかった


愛犬を亡くしたばかりの

一人の女性が車を走行中

偶然に前を横切る彼を目撃する

彼女は一目で彼の威厳の虜になった

車から降りて彼に近づき

持っていた弁当を差し出す

食べるわけがない

彼はプイと横を向いて知らん顔

無視し続ける

彼女には直ぐにピンときた

これがお尋ね者の野良犬だと


それからというもの

彼女は何度も彼に無償の愛を降り注ぐ

しかし何度手を差し伸べようと

食べ物を与えようと

彼は無視したままびくともしない


ある日のこと

彼は彼女について来いと

促す仕草を繰り返す

彼女は何だろうと訝りながら

着いて行った


そこはあの仲間が

毒によって殺された森であった


彼が立ち止まった先に

誰が捨てたのか

まだ生まれて間もない

子犬が佇んでいる


彼女はその子犬を助けた

彼の犬種は猟犬である

猟犬は主人を

一度は試すと言われている

彼女は彼の与えた課題を乗り越えた


それ以後

彼は彼女の飼い犬となった

もはや彼には威厳を湛えた厳しい顔はない

穏やかな優しい表情が溢れている


人間の愛が

彼の消しようのない心の傷を癒し

許しがたい人間の罪を水に流させた


好きで頑なになるものがいようか

自らの罪を悔い

他人の罪を許せれば

心は穏やかになる


この素晴らしい飼い主と

素晴らしい犬の物語は実話である


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