「野良猫」

2000 Mar.1

Words By Kenji Kanno


わたしは黒のミャー子

1丁目公園周りの100m四方を

縄張りとしています

今の塒は地番9−15の物置の中

ジュニア3匹と暮らしています

ここの塒は軒がかかっているので

雨風が凌げる上

物置の中に巣があるので

快適そのものです

 

ただひとつ厄介なのは

クンクンとわたしたち親子の

匂いを嗅ぎまわるチンケなビーグル犬が2匹

ひっきりなしにやって来ることです

あんまり煩いので

この間ウォーと唸って睨みつけてやったら

小さめのおばあさん犬の方が

目をそらして逃げ出しました

臆病な犬で助かります

 

それにお前達子猫の餌を探さなくとも

朝昼晩とミルク漬けのパン粥が置いてあります

これには涙が出るほど嬉しい

とかく世知辛い世の中で

わたしたちの姿を見るにつけ

石を投げたり追いかけて来たりで

すぐに逃げて隠れなければならない

安全な住処はほんの一握りしかないのです

この物置とあと一箇所だけ

 

そもそもわたしは2丁目のA宅で飼われていました

その前はどこかのなんとかというペットショップです

どうもわたしはそこで生まれたらしい

Aの子供がわたしを見つけて

おかあさんこの猫ほしい

ちゃんと世話をするの

世話をするなら買ってあげるは

というわけで晴れてそのA宅の住人になったのだけれど

そこの子供が世話をしてくれたのは

ほんの1週間だけで

あとはほったらかし状態

あげくの果てに

おもちゃのピストルの標的にされて

プラスチック弾の餌食にされて苦しかった

それでもうプッツン

わたしにもアメリカンショートヘアのプライドがあります

この家には何の未練もないので

さっさと家出することにしたのです

ああせいせいしたわ

 

それからが大変

塒がない餌がない

うろうろしていたら

凛々しい黒白のボス猫とおぼしき雄猫が

しきりにわたしを鋭い目で誘います

わたしはポーッとなってしまって

ついて行きました

どこかの家の縁の下の塒に落ち着き

どこから持ってきたのか鳥のから揚げをいただきました

この縁の下の周りを見渡したら

仲間がたくさん休んでいます

安心できる空間でした

 

そこでその雄猫とねんごろになりました

しばらくそこで暮らしましたが

どうもお腹が大きくなってきました

そこでひとり立ちすることにしたのです

仲間が9−15に行けと教えてくれました

そこの人間は動物好きで

決して追い出したりしないからというものでした

ただ犬が2匹もいて煩いが

強暴な犬ではなくて

うまくやれば一緒に遊べるかもしれないと

 

そういうわけで

今この9−15の物置の中にいるのです

最初から物置の扉が10Cmくらい開いていて

どうぞお入りくださいと言っているようでした

なるほどここの主人は人が良く

あっ また猫が巣作りしてるよ

とそこの奥さんを連れてきて

わたしたちを見てニコニコしています

優しそうな住人で安心しました

 

わたしは安心して子供を3匹産みました

今はすくすく育っています

犬は毎日クンクン嗅ぎまわります

その度にここの主人が

ダメだよ可愛い猫ちゃんがいるからね

そっとしておいてねと犬を諭します

至れり尽せりで感謝感謝です

 

わたしたちがこうやって野に下っているのは

わたしたちが悪いのではありません

わたしたちを捨てた人間様が悪いのです

ここの団地には至る所で仲間が苦しんでいます

その数やうなぎ上り

捨てる馬鹿がいれば拾う神もいますが

とにかく一度飼ったなら

責任を持って命尽きるまで面倒をみてほしい

切に願います

わたしたち親子のように

素晴らしい環境で暮らせるのは

ほんの一握りの猫なのですから


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