「プロポーズ」

2000 Feb.19 

Words By Kenji Kanno


恋に飽いた女と

恋を知らない男が

その場限りの仕事で出会った

出会いに男は特別な感情は抱かなかった

出会いに女はときめいた

好みのルックスの異性に出会ったときに

誰もが感じる淡い想いである

仕事が終わり数日後

男は女に電話で仕事のお礼を伝える

女は嬉しかった

ときめきを感じる男からの電話なのだ

しかし女は軽く見られたくない思いから

その場は通り一遍の挨拶で終える

女は2日間待った

そしてデートに誘った

男には女の誘いを断る理由はない

初めてのデート

男は年上の女の虜になった

立居振舞のすべてに魅せられた

女は決して演技をしているのではなかった

奇を衒うことなく自然に振舞った

恋に飽いた女の妙な余裕である

やがて二人は恋愛関係となった

男は仕事で全国を飛び回っていた

自ずと電話でデートが多くなる

たまには喧嘩もした

男は切られた電話に

不安で押し潰されそうになる

明日の仕事は10:30

朝一番の新幹線に乗れば女に会える

男は女を訪ねた

8:00である

8:14の新幹線で

とんぼ返りすれば仕事に間に合う

後14分

女と対面する

男は走って女のもとへ来たので

息があがって話せない

やっと声が出た

後5分しかない

「昨夜はごめんよ悪かった」

男は一言そう言って

女の胸でオイオイ泣いた

女は男が埋めた体を抱いて嬉しかった

男は慌しく去って行った

「私の心を持って行かれた」

女は呆然として思った

これが愛しているということか

3ヶ月が過ぎた

女の誕生日である

男は決めていた

今日プロポーズをしようと

レストランで食事をし

店を変えて楽しく飲んでいる

いつになったらプロポーズをしよう

もうすぐ0:00

女の誕生日が終わってしまう

11:45男は意を決した

女を店の外に誘い

ここで待っていてと

女から数十m離れて向き合った

男はあらん限りの大きな声で

「結婚して下さい」

「愛しています」

そう叫んだ

女は黙ったままである

男は更に叫んだ

「きっと幸せにします」

女は微笑んで

両手を広げた

言葉は発しない

男は女の懐に駈けて行き

顔を胸に埋めてオイオイ泣いた

女は男をしっかりと抱きしめた

「わかったは」

「わかったは」と心で繰り返しながら

最後に女は苦笑い

「抱いている手が逆じゃない」


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