「蝉採り」

1999 July26

Words By Kenji Kanno!


早朝から

1週間の地上の命を

精一杯生きるかのように

凄まじい勢いで蝉が鳴いている


ここは僕の里山

6歳までの僕の心を受け留めた

大きく優しい自然の懐である


古くなった蚊帳を切って

母が仕立てた虫取り網を

三軒竿に取り付けて

得意になって

蝉採りに出かけた


ミーンミンミンミンと甲高いミンミンゼミ

ジージージーと一本調子のアブラゼミ

ツクツクホーシとリズミカルなその名もツクツクホーシ

カナカナカナカナカナと心地よい響きのヒグラシ


選り取り見取りで

賑やかである


逸る心を押さえて

おもむろに三軒竿を継ぎ始める

有に6mちかくある

幼い体には持ち上げるのにも

渾身の力がいる


自分の体の3倍はあるだろう

大木を前にして見上げた

いるいる数種類の蝉が

優雅に佇んでいる


長尺の虫取り網を

よいしょと腰を入れて持ち上げた

足を上下に開いて安定させ

大木の蝉目掛けて

素早く思いっきり被せた


ボキッと鈍い音がして

長尺の三軒竿が真中から折れた

重すぎてコントロールが利かず

力まかせに被せてしまったのだ


蝉が3匹飛び去った

冷たいものが降ってきた

どうやらオシッコをひっかけたらしい


しばし茫然として声も出ない

何事もほどほどが良いということを

幼心に悟った

蝉採りの日だった


夏の酷暑に

幼い夢が蘇る


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