「心身症」

‘00 Nov.24 Words By Kenji Kanno!


愛犬ロンが亡くなって数ヶ月が過ぎた

連れ合いハッピーは当然ロンの死を知っている

亡くなって1日は線香を焚いて別れを惜しんだ

ハッピーは横たわる遺体に寄り添い

死の匂いを悟った

棺に納めたときもロンを覗きこみ

悲しい顔で別れを告げているかのようだった

12年連れ添った夫婦なのだ

彼等夫婦でいるときは

ロンはいつも

何をするにもハッピーの後ろで

じっと我慢の意地らしい犬だった

言わばかかあ天下であったが

そこにはハッピーを守るという雄の本能があった

ハッピーはと言えば

ロンの気持を知らずか知ってか

我侭のし放題で

人に甘えるのも食べ物をいただくのも

ロンより先に動いた

ついに12年間

ハッピーの後ろでじっと我慢しているロンがいたのだ

危険を感じるときだけは

ロンの後に続くちゃっかり者のハッピーである

こんな状態の中

突然ロンが天国に召された

それからのハッピーは力なく

暗闇に落ちて行くかのようだった

しばらく痴呆のように徘徊が続いた

暗いところへ暗いところへと行って

項垂れて放心している

外に出れば暗い茂みで突然横たわり動かない

これこそ心身症である

心の拠り所をなくした者なら

誰もが経験することなのだろう

このまま立ち直れないのか

随分と心配したものだ

ロンがいるときには

何に対しても恐れや淋しさを感じることなく

悠々と昼寝をしていたものである

今はどうか

すっかり淋しがりやになってしまった

我々夫婦で外出する時など

悲しく泣き続けて困ってしまう

家にいるときは

夫婦のどちらかに体を触れている

風呂に入れば1分おきに覗きに来るのだ

ともあれ心身症は回復した

淋しがりやのハッピーにはなったが

一安心である

この次は

ハッピーが天国に召されるときは

我々夫婦が心身症になりそうで

今から不安である


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