「崇高な夢」
1999.Mar.15
Words By Kenji Kanno!


北アルプスの尖った稜線が
眼窩を過ぎる

山とは無縁の男が
天空から山を征服している

白馬も槍も剣も穂高も

幾多のアルピニストを眠らせた
犯しがたい山々をいとも簡単に

天空の標的を捕らえるかのように
尖った頂は鋭さを増し
不意の征服者を突き刺そうとする

突けるものなら突いてみろ
天翔ける支配者は
お前たちに捕らえられるほど愚かではない

雪氷の白を反射して
神々しい頂を見る瞳は
果てしない憧れを見ているのだろう

踏みしめる小さな一歩の積み重ねが

犯しがたい憧れを
確実に引き寄せて行く

息絶え絶えの肉体は
憧れを求める強靭な精神と
靴底のアイゼンが支えている

次の一歩を得るために
打ち込むハーケンが
乾いた悲鳴を上げる

形のない崇高な夢が
その先にあるに違いない

アルピニストはハンマーを打つ手を止めて
上空を飛ぶ飛行機に目をやった
苦笑いを浮かべながら
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