「宝物」

2000 Mar.21

Words By Kenji Kanno


齢一桁の宝物は

戦利品のパッタ(メンコ)である


人差し指と中指に親指を使い

流暢にパッタを持って

地面に寝ている敵のパッタに

フワッとぶつけ

空気抵抗を上手く使って

ひっくり返すのだ

ひっくり返せば

それはもう我の物である

そのずば抜けた技量が我にはあった

50Cm四方のダンボール箱に

溢れんばかりの戦利品である

悔しい思いをし泣いた者もいただろうが

負ければ取られる決まりである

月光仮面に七色仮面

円形のパッタの表は

古のヒーローで飾られカラフルだった

齢一桁の小僧が

勝負ごととは可愛くないが

それが許される大らかな時代だった


小学生までの10代の宝物は

腕を競う遊び道具が多かった


竹でできたチャカポコ

15Cmほどの竹筒を

それと一体の

剣を付けてくり貫いたオスの部分と

その剣の部分が納まるメスの筒を

凧紐で繋いで

10種類くらいの剣を筒に納める技を

決まった順番にこなして行く遊びである

途中で躓くことなく

より速く華麗にこなした者が勝利者となる

この技量も相当なものだった


仙台近郊はコケシの産地である

至る所にコケシ工房があった

そこに頼むと

目の前で原木からコマを作ってくれた

我のお気に入りは樫のコマである

こげ茶色にゴマが入った

いかにも強そうなコマで

実際にコマでは最も堅い部類だった

買って最初にすることは

水に浸けることである

こうすることで更に強度が増し

当然のことながら重くなる

母に編んでもらった

房付きのコマ紐を

コマの腹に唾を掛けて滑りを止め

しっかりと巻いて

敵のコマ目掛けて一気に振り下ろす

バシッと鈍いぶつかり音を発し

敵のコマが真っ二つに割れて左右に吹っ飛ぶ

してやったり

不気味な笑みが湧き上がる


チャカポコもコマも間違いなく宝物だった


中学と高校までの10代は

レコードや本など

心に響くものに変化し

遊び相手のある道具ではなくなった


20代には世界136の国と地域の交信証

コールサインJR7KND

ハムの金字塔である


30代はBASICでひたすら書き綴った

PCのプログラム


進行形の40代はいったい何なのか

歳とともに宝物の面白みがなくなって行く

無心に他愛無いことに没頭できた

10代前半の物心両面の宝物

もはや欲しくても手に入らない

過去への忘れ物

そんなことを想いながら

言い知れぬ切なさが込み上げてきた


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