「憧れは夢見るもの」
1999 Mar.12
Words By Kenji Kanno!


菜種梅雨が
滅入った気分を道連れに
冷たい雨を降らせる

こんな日は
想い出を枕に
心のアルバムを開こう

ロードされた遠い記憶の中で
紋白蝶が舞っている

鮮やかな黄色が
小さな心を支配し
埋め尽くしている

菜の花だ
一面の菜の花が
遠く山裾まで広がっている

少女は憧れを見ていた
日常の喧騒も
煩わしい語らいも
ここには何もない

紋白蝶が舞うように
ふわふわとした
軽い心を楽しんでいる

少女は鏡を見るように
心のシャッターを切り
記憶の印画紙に焼き付けた

黄色は鮮やかさを
なお鮮明にして心を奪う

少女は印画紙をそっと覗いた
不安げな脅えたような
顔に笑みはない

少女は心の扉に鍵をかけ
再び見ようとはしなかった

むせかえるような
菜の花の香りは
ますます強く

鮮やかな黄色は
瞳を圧倒している

憧れは夢見るもの
憧れに触れれば現実となり
色も香りも消えて行く

心のシャッターを切った時に
少女は大人になった

菜種梅雨の冷たい雨が
夢見た憧れを呼び起こす

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